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リーマン破綻から10年で世界は変わったのか

今年9月15日は、アメリカの大手投資銀行「リーマン・ブラザーズ」が経営破綻してから、ちょうど10年に当たる。

2008年9月15日。
この日を境に100年に一度の経済危機、グレートリセッション(大恐慌)と呼ばれる未曾有の金融危機に、世界中が大パニックに陥った。

■アメリカ史上最大の投機バブルが弾けた日

 2000年代、アメリカの住宅市場はバブルに陥り、低所得者でも住宅ローンが組めるように組成された「サブプライムローン」が急速に定着。

サブプライムローン組成のベースともなった「証券化商品」の急増によってバブルと化し、住宅バブル崩壊によってアメリカの金融システムに大きな障害が出ることになった。

 証券化商品などのデリバティブ(金融派生商品)を大量に保有していたアメリカや欧州の金融機関は一斉に経営危機に陥り、震源地であったアメリカの投資銀行第5位のリーマン・ブラザーズが資金ショートを引き起こして経営破綻。

世界の金融システムは一瞬にして不安定になり、世界の株式や債券、商品の各市場はそろって大暴落した。

 2008年5月には1万2000ドル台だったニューヨークダウは、半値に近い6500ドル台にまで下落し、日経平均株価も最大で4割下落した。

日本人投資家の多くが投資していた外国投資信託は大きく下落し、保有していた投資信託の大半が元本割れした時代でもあった。

 そんなリーマン・ショックから10年、世界は様変わりしたと言っていい。

日本は相変わらず日銀による異次元の量的緩和を続けているが、世界はアメリカを筆頭に景気回復を遂げつつある。

金融緩和の時代が終わり、金融引き締めの時代に入りつつある。

 一方、リーマン・ショック以前には存在しなかった極右政権が数多く誕生し、それまでのグローバリズム優先、自由貿易主義とは真逆の政策を実行する国家が増えてきた。

とりわけ、ドナルド・トランプ米大統領の出現は世界の様相を一変させた。

これもまたリーマン・ショックがもたらした大きなつめ跡と言っていいのかもしれない。

この10年で、世界はどう変わったのか。そして、これからの10年はどうなるのか。

リーマン・ショックから10年を機会に考えてみたい。

 リーマン・ショックは、なぜ起きたのか。

10年が経過した現代でも、きちんと正確に分析されて、把握されているわけではない。

いったい何が間違っていたのか、誰が誤った判断をしたのか……。

きちんと責任が明確にされることもなく、現在に至っている。

 そもそも、リーマン・ブラザーズが経営破綻した当時の同社副会長は 「返済に必要な借入額を 35%上回る担保があった」と証言している。

にもかかわらず、同社が必要とする資金を周囲の金融機関、いわゆるカウンターパーティは融資せずに見捨ててしまった。

当時のアメリカ財務省や中央銀行に当たるFRB(アメリカ連邦準備制度理事会)も、必要な措置を取らずにリーマン・ブラザーズの経営破綻を黙認してしまった。

 ジョージ・W・ブッシュ米大統領の2期目の最終段階で、2カ月後の11月には次期大統領選挙が待ち構えていた。

そんな状況のなかで、ブッシュ政権がきちんとした対応を取らなかったことが最も大きな原因とも言われている。

 リーマン・ショック直接の原因は急激な流動性の枯渇だが、そこに至った原因がはっきりしていない。

当時、主流を占めていた「デリバティブ取引」では、銀行が融資した不動産ローンを証券化することで、銀行のバランスシートから離脱させ、銀行は無限に近い形で融資を拡大することができた。

そうしたデリバティブ取引は、以前からあったものの、2000年に入ってから急速に拡大した。

 その推進役が、ゴールドマン・サックスやJPモルガンといった投資銀行やその傘下のヘッジファンドだが、その背景にはアメリカが商業銀行と投資銀行の垣根を取り払ってしまったことが遠い原因とも言われている。

 バラク・オバマ政権時代の2010年には「ボルカールール」を成立させて、投資銀行が自己勘定でリスクを取って金融商品を売買することを禁止し、デリバティブや商品先物の取引も規制。

ヘッジファンドや未公開株ファンドへの投資も制限を加えている。

 リーマン・ショックに至るまでの金融市場は、まさに現在のようなぬるま湯の経済環境、いわゆる「ゴルディロックス(Goldilocks)相場」と言われ、リーマン・ショックに至るまでのさまざまな経済指標も穏やかで順調なものだった。

 ファンダメンタルズは、結局のところ危機を防ぐための指標=シグナルとはならなかったようだ。

そして、フランスの投資銀行であるBNPパリバ系のヘッジファンド破綻やアメリカの投資銀行「ベアー・スターンズ」の経営破綻も、今から考えれば明確なシグナルだったのだが、適切な対応が取られなかった。

■リーマン・ショックが生み出した過剰流動性と格差社会

 一方で、リーマン・ショック直後に湧き起こった「Occupy Wall Street( ウォール街を占拠せよ)」運動は、リーマン・ショックによってさらに拡大した格差社会を糾弾する運動となった。

ウォール街の「強欲主義」を厳しく糾弾し、政治の世界でもホワイトハウスで何もかもが決まってしまう「ワシントンコンセンサス 」に対する大きな反対運動が沸き上がっていく。

 やがて、1930年代の世界恐慌後の社会がそうなったように、世界には「ポピュリズム(大衆迎合主義)」が跋扈する、極右政権や軍国主義がはびこる社会へと変質していくことになる。

結果的に、アメリカ第一主義を抱えるトランプ政権のような悪夢に近い政権が誕生してしまった。

■リーマン・ショックが人類にもたらしたもの

 いずれにしても、10年前のリーマン・ショックがこの世界に残したものは金融市場に限らず、政治に対する考え方などにも大きな影響を与えた。

 リーマン・ショックは人類に何をもたらしたのか……。簡単にピックアップしてみたい。

<金融市場にもたらされた影響>
 ①過剰流動性……リーマン・ショックは、急激な流動性の枯渇が原因のひとつだと指摘したが、その対策として取られたのが大規模な金融緩和であり、非伝統的な量的緩和だった。

リーマン・ショック収束後も、ギリシャなど欧州の通貨が大きく下落するなど、金融市場は何かと流動性が枯渇する事態となり、実体経済もまさに「つるべ落とし」のような不況に見舞われていく。

そんな中で、恐慌の専門家でもあった「ベン・バーナンキFRB議長」が実行した政策というのが、非伝統的な量的緩和政策「QE」だ。

FRBが長期国債などを購入する方法で、莫大なマネーを金融市場にばらまいた。

ヘリコプターからお金をばらまくような金融政策であったために、バーナンキ議長には「ヘリコプター・ベン」というニックネームが付いた。

 実際に、リーマン・ショック直前のベース・マネー(世の中に出回っている資金と中央銀行に預けられた当座預金)は、約8720億ドル(2008年8月)から2兆6480億ドル(2012年1月)となり、ざっと3倍に膨れ上がった。

FRBがそれだけ輪転機を回して紙幣を増やしたわけではないが、世の中に出回るマネーの量を増やしたわけだ。

 同様に、ECB(欧州中央銀行)や日本銀行なども、追随して異次元の量的緩和政策を実行。

異次元、非伝統的な量的緩和によって、世界経済は平常な姿を取り戻していく。
金融危機の拡大は過剰流動性によって避けられたのだ。

 そしていま、アメリカは量的緩和政策を廃止し、金利を引き上げて、そのうえで肥大化したFRB自身のバランスシートを縮小する作業に取り掛かっている。

ECBもまた、この9月から緩和縮小(テーパリング)を開始し12月には終了させると宣言している。

 日本銀行だけが依然として量的緩和を続けているが、いずれにしてもリーマン・ショックによる後遺症で、世界にはマネーがあふれてしまった。

過剰流動性は至るところでバブルを引き起こす。
世界は、今後大きなツケを払わなくてはならないかもしれない。

 ②モラルハザードの崩壊……リーマン・ショックを引き起こした大きな原因の1つに、投資銀行などの自己勘定による金融取引の存在がある。

この投資銀行の動きを閉鎖することが、リーマン・ショックの解決策とされ、ボルカールール、いわゆる銀行の「市場取引規制ルール」が成立したのだが、オバマ政権の成果を片っ端から崩そうとするトランプ政権の誕生によってうやむやにされつつある。

 結局のところ、投資銀行は復活し、また元の利益優先の強欲主義がはびこりつつある。

リーマン・ショックを引き起こしてしまった、投資銀行のCEOなどの責任はほとんど問われず、結局は「やった者勝ち=バレなければいい」といった「モラルハザード(倫理観や道徳観の欠如)」が起きてしまっている。

金融業界にとって何よりも大切なモラルが崩壊したわけだ。

<政治、国民生活への影響>
 
①格差社会の拡大……リーマン・ショックが起きた直後に湧き起こった「Occupy Wall Street」運動は、若者を中心とした格差社会への抗議運動だった。
世界が保有する資産の半分を1%の富裕層が独占している――そんな現実が明白になったからだ。
 リーマン・ショックから10年が経った現在、格差社会は一向に縮小する気配がない。むしろ、格差はますます拡大していることを示している。

 ②ポピュリズム=極右政権の台頭
……リーマン・ショック後に現れた大衆迎合主義=ポピュリズムの台頭は、いまや世界を混乱に陥れている。
リーマン・ショック直後のアメリカ大統領選挙では、従来の価値観を持つオバマ大統領が当選し、リーマン・ショックからアメリカを救ったわけだが、8年後の大統領選挙ではアメリカ第一主義を唱えるトランプ政権が誕生してしまう。
この8年の間に世界は大きな転機を迎えたわけだ。
 大衆が望む政策を羅列して人々の多数派を狙う「大衆迎合主義(ポピュリズム)」は、世界中で支持を得て、着実にその勢力を伸ばしている。
とりわけ欧州ではその勢いが増しており、最近もスウェーデンの総選挙で移民排斥を唱える極右政党が第1党に躍り出ている。

 1929年の大恐慌後、ヒトラーや日本の軍事政権の誕生を許すなど、恐慌(金融危機)とポピュリズムには大きな因果関係がある。
世界中で拡大する極右政権誕生の背景には、100年に一度の金融危機があったと考えるのが自然だ。
■次に来るリスクは何か? 生き残るための準備を! 

 現在の金融市場は、リーマン・ショックの影響から今も解放されていないと考えたほうがいいのかもしれない。
というのも、あれだけお金をばらまき続けたアメリカや欧州が、ここに来て景気回復を理由に資金を引き揚げて過剰流動性を逆回転し始めたからだ。

 たとえばFRBは、予告したとおりバランスシートの縮小を開始しており、すでに2520億ドル(28兆円)の保有資産を減少させている。
中央銀行のバランスシートは拡大すればするほど市場に資金が回り、あらゆる資産の価格が上昇する。
バランスシートの縮小とはその逆を意味する。
金融市場から資金が消えるという意味だ。
 実際に、FRBやECB、日本銀行の3行を合わせた市場からの買い入れ額は、この1年で月額1000億ドルからゼロになる見込みと言われる(2017~2018年第4四半期)。
この1年間で月額11兆円のマネー供給が市場から消えたわけだ。

 こうした流動性の減少は、現在起きているさまざまなバブルに大きなダメージを与えようとしている。
たとえば、現在バブルに近い状態だと考えられるのは次のようなものがある。

ETF(株価指数連動型投資信託)
 ETFは、この10年で急速に拡大成長した金融商品のひとつだ。
日経平均株価といった指数に連動する「インデックスファンド」が株式市場に上場されているもので、この10年で株式市場では主流商品になってきた。
ファンドマネジャーが自分の判断で運用する、いわゆる「アクティブ運用」などが減少して、自動的に指数に連動する「パッシブ運用」タイプのファンドが急激に増えたと言っていい。

 問題は、もし株式市場が暴落した場合、ほとんどのETFやインデックスファンドが、急激な資産減少を余儀なくされることだ。
人間が運用するアクティブ運用中心の世界では、どんなに暴落しても、すべての投資信託が一斉に動くことは少ない。
 それに対してETFなどは、暴落した指数に合わせて、自動的に資産の売却注文が出されることになる。
売りが殺到して、市場は大きなパニックになりやすい。
これもリーマン・ショック以後の金融市場に起きた変化でありリスクだ。

プライベートエクイティ
 リーマン・ショック以後、年金基金や民間の自己運用資金部門は、金融危機によって大きな損失を出した反省から、ヘッジファンドなどの運用会社に資産運用を任せる傾向が増えた。
 とりわけ、莫大な資金を持つ年金基金などは、プロの運用会社に運用を任せることが多くなり、中でも「プライベートエクイティ」に投資するタイプの運用会社が大きく注目され、資金も集まった。
その結果、ウーバー(Uber)とかテスラモーターズといったまだ実績のない会社が、上場前から莫大な資金を集めていた。
日本でも、メルカリやLINEが資金調達では不自由しなかったのと一緒だ。

 株式市場や債券市場に資金を投資して得られるパフォーマンスよりも、未公開株や未上場企業に投資するほうが、より大きな運用益を得られる可能性が高い。
リーマン・ショックによる株式市場や債券市場の下落は、運用方法そのものも変化させてしまったと言える。
9/15(土) 6:00配信

金融イノベーション
 2017年は仮想通貨が大きな注目を集めた。
いわゆる技術開発によって誕生した新しい金融システムのひとつだが、キャッシュレス化が進む現代社会では仮想通貨のような金融イノベーションスタイルの投資対象が次々に増えていくことが予想される。

 リーマン・ショックから10年経過する中で、債券や株式に投資するよりも大きなリターンが予想できる新しい投資スタイルと言っていい。
ところが金融イノベーションによってできた新しい投資スタイルはしばしば破綻する。
 考えてみればリーマン・ショックもまた、証券化商品やサブプライムローン、クレジットデフォルトスワップ(CDS)といった新種で、従来なかった金融商品が原因となった。
あの時点では、金融イノベーションの一種だったといえるかもしれない。

 仮想通貨に加えてブロックチェーン、フィンテックといった金融イノベーションの成果は、いま大きなビジネスになろうとしている。
しかし新しいビジネスは、いつまた破綻するかもわからない。
不動産市場
 アメリカの住宅市場はすでに価格が下落しつつあり、住宅バブル終了も近いと言われる。
住宅市場が弱くなれば、商業ビルなどの不動産市場全体に影響が出てくることになる。

 ちなみに、リーマン・ショックの原因となった証券化商品が、いま中国で急速に拡大していると言われている。
まだアメリカほどの金額ではないが、中国のバブル形成に一役を買っている。
証券化商品の破綻は、その処理が極めて面倒で、大きな被害が出るために、注意しておく必要がある。
■リーマン・ショック10年の教訓は生かせたのか? 

 リーマン・ショックから10年、世界は教訓として生かせているのだろうか……。

 残念ながら、やや疑問と言わざるをえない。
本来であれば、緩やかで安定した経済成長を遂げるはずだったアメリカ経済は、ポピュリズムを原動力とするトランプ政権が誕生したことで、株価は意図的に大きく上昇し、住宅価格も値上がりした。アメリカはまた強欲主義に戻ってしまった、ともいえる。
 過剰流動性は、トルコや南アフリカといった外貨準備高の少ない国の財政を悪化させ、莫大なドル建て債務を背負いながら、いつまたトルコショックのような通貨危機を引き起こすかわからない。

 日本の場合、幸いなことに金融の最前線を走っていた金融機関が少なかったためにリーマン・ショックは最低限の被害で済んだ。
とはいえ、日本の抱えるさまざまな諸問題はこの10年で何一つ解決してはいない。
むしろ増幅されたような気がしてならない。
 欧米が期間限定で実行した経済政策も、日本では効果的な成功を挙げられていない。
財政をきちんと立て直して、小さな政府を目指すべきではないのか。
そして、できるだけ政府から民間に権限を委譲した、自由な経済に切り替えるべきではないのか。

 アメリカが、いち早くリーマン・ショックから立ち直った背景には、日本のような政府補助金が一切なく、民間企業の自由が保障されていたからだ。
銀行を救済したことも激しく非難された。
 投資家レベルで言えば、10年前のリーマン・ショックで大きな損失を経験した人も多かったはずだが、自分自身で考えてリスクを最小限にする運用を心掛けるしか方法はないのかもしれない。
いずれにしても、これからの10年、日本に住むわれわれにとっては正念場の10年となるだろう。
自分の資産を守り、生き残るためのノウハウを身に付けることだ。